★Novel >> 春一番と黒い翼/桐村 香猫
その日は朝から強風が続いていて、クマタンとシルヴィは外へお出かけが出来ずに不満顔でした。 窓の外を流れる風は、春一番なのだと告げられていました。 「もう春になるから、そろそろピクニックの準備をして皆で行こうか」 ご主人様はそう言って二匹をなだめます。 「ピクニック!?」 長い耳をぴんと立て、シルヴィは早々とリュックを用意し始めました。 「何処がいいかなぁ?」 クマタンも周辺地図を広げだし、綺麗な景色の見える場所を探し始めます。 機嫌が直った二匹を見て、ご主人様はほっとして買い物に出かけました。 彼らが元気じゃない時を見るのは嫌だったのです。 「まだかなぁ」 今度は全身で期待しながら窓の外を眺めます。 とはいえ、すぐに止むはずはありません。 シルヴィは既にリュックを背負っていますし、クマタンも水筒にカルピスを入れてあります。 「ねえ、風さんにお願いしたら春をもっと早く連れて来てくれるかな?」 待ちきれないシルヴィたちは、窓を開け、大きな声で呼びかけました。 「風さーん!」 彼らの住む部屋は十階辺りにありました。クマタンは下を見ないように叫びます。 「早く春を連れて来てー!」 でも、風に声をかき消され、シルヴィたちのお願いは伝わったのか分かりません。 シルヴィは身を乗り出すと、もっと大声で語りかけました。 「風さーーーーん!!」 「あ、危ないよ、シルヴィ」 怖がるクマタンの制止も一生懸命なシルヴィには聞こえません。 その時、シルヴィの小さな足が窓の柵に引っかかり、勢いづいて外へ飛び出してしまいました。 「……うわぁぁぁぁ!!」 「シルヴィ!!」 間一髪、窓下の飾り枠を握ったシルヴィですが、風は軽い身体を揺さぶります。 「ど、どうしよう!」 クマタンは周囲を見回しますが、助けを呼ぼうにも辺りには誰もいません。 「うわぁぁん、シルヴィが飛ばされちゃうよぅ!」 困ったクマタンは目を瞑りながらシルヴィの元へ這って行きます。 「手を離しちゃ駄目だよ!」 「うううう〜」 震えているシルヴィの手を押さえながら、クマタンは泣きそうになりました。 「風さーん! シルヴィを助けてぇ!」 『革命の……黒い翼!』 突然、黒い影が薄目を開けるクマタンの視界に入ってきました。 それは―― 「クマタン、部屋の中に戻って!」 隣に住む黒猫キリチョがシルヴィの身体を抱き上げながら叫びました。 彼は背に蝙蝠の翼を生やし、風に逆らって羽ばたいていたのです。 「危ないんだから、不用意に窓を開けたら駄目なんだ。分かったか?」 魔法を解いたキリチョは二匹を正座させ、厳しい口調で説教をし始めました。 「分かりましたぁ……」 疲れ果てたシルヴィとクマタンは泣きながら頷きます。 「今日は俺がいたからいいけど、もうするなよ」 二匹の頭を撫でながら、キリチョは目を閉じます。 「お前らに何かあったら黎明の奴が悲しむんだからな」 キリチョは抱きしめると、 「助かってよかった――」 安堵の溜息をつきました。 「ピクニック♪ ピクニック♪ 今日は皆でピクニック♪」 次の日、即興で作った歌を口ずさみながら、シルヴィとクマタンは草の匂いのする公園をスキップします。 その後ろを付いて行くご主人様たちは、笑顔で二匹が無事だったことを喜びました。 あらゆる窓が二匹に開けられないよう封印されたことは言うまでもありません。 |
END
初しるくま小説です。キャラ案やネタだしだけしてましたが、なんだか楽しくなってきたので。 一部の箇所は、お分かりな方だけ笑ってください。読み進めてるとまた出てきますので。このくらいはいいでしょう? |